ITエンジニア人材不足の実態~未経験者の転職が増えている理由
AIやビッグデータの活用、DXなど第四次産業革命への対応に必要なITエンジニア人材。日本は少子高齢化の影響でIT・WEB業界以外の業種でも人材不足が深刻化し、システム開発需要に合うスキルや知識を持つIT技術者の人手確保は対策が必要な課題です。
一方、ITエンジニア人材の不足により未経験者を採用、技術者として育成する会社も増え、過去と比較して実務未経験でもIT・WEB業界へエンジニア転職しやすいタイミング。オンラインプログラミングスクールなど仕事を辞めず学習できる環境や、政府による先端技術取得支援制度も構築され、他業種や未経験からのITエンジニア転職が期待されています。
この記事では経済産業省の「IT人材需給に関する調査」から、日本のITエンジニア人材需給の現状や実態、人材不足の理由、プログラミング教育の必修化や未経験者の積極的活用など今後の対策について解説します。
日本の深刻なITエンジニア人材不足の実態~現状と将来予測
日本のITエンジニア人材不足の実態はどの程度深刻でしょうか?経済産業省は2019年に発表した「IT人材需給に関する調査」で、現状のIT人材の生産性や新卒IT人材の供給、今後のIT需要を考慮した人材不足数の将来予測をしています。以下、ITエンジニアの不足数や不足する分野について詳細を紹介します。
調査ではITエンジニアの人手不足数は2030年に最大79万人の予測
「IT人材需給に関する調査」ではIT需要を低位~高位、生産性上昇率を3段階に分けて試算。生産性上昇率が0.7%の場合、2030年のITエンジニア人材の不足数は最大79万人に拡大と、深刻な供給不足の結果が出ました。
IT需要が試算と同じ場合、2030年のIT人材不足の解決には生産性上昇率が5倍以上の必要があり非現実的。ITエンジニアの人手不足問題は、生産性向上と同時にITエンジニア人材の育成が必要です。
特にAIやIoT、ビッグデータ分野を担う先端IT人材の深刻な人手不足数が問題
「IT人材需給に関する調査」のIT人材を「従来型IT人材」と「先端IT人材」に分けた分析では、従来型IT人材は需要を満たす一方、AI・IoT・ビッグデータなど先端技術分野の知識・スキルを持つ先端IT人材向けの人手不足が明確化。IT・WEB業界の中でも業種や分野、IT人材のスキルによる需給バランスの違いが出ました。
IT需要の伸びが中位、生産性上昇率0.7%の試算に加え、Reスキル率(従来型IT人材から先端IT人材へのスキル転換率)が1%の場合、先端IT人材の不足は54.5万人に拡大。一方、人材転換が増加しすぎると、先端IT人材と従来型IT人材のどちらも不足します。
従来型IT人材と先端IT人材は必要なスキルや知識が違い、従来型IT人材で先端IT人材不足を補うことは困難。また単純なReスキルによる人材転換では従来型IT人材も不足し、従来型IT人材の転換に加え、新たな先端IT人材育成がITエンジニア人材不足の問題解決のカギです。
DX需要もあり、システム構築案件も多く、転職求人も増加
「IT人材需給に関する調査」が発表された2019年以降に顕著になったDX(デジタル変革)需要で、従来型IT人材にあたるシステム開発要員の採用が活発化。転職情報サイト・dodaの転職求人倍率レポートではIT・通信業界は求職者1人につき7.63件の求人、エンジニア職種に絞れば12.80件と他の職種と比較して求人が多い調査結果が確認できます(2024年度9月データより)。
現在は従来型IT人材も案件が多く人手不足は深刻化し、過去と比較してエンジニア関連職種を筆頭にIT・WEB業界の求人情報は拡大。AI・先端IT分野は未経験からの転職は難しい一方、従来型IT人材であれば知識やスキルを習得すれば未経験でも採用される機会が増えています。
日本のITエンジニア人材不足はなぜ?理由と原因分析
深刻な日本のITエンジニア人材不足の問題はなぜ起きているのでしょうか。そもそも日本のITエンジニア人材の不足理由や原因は何でしょうか?人口構造やビジネス需要の現状、教育環境などに分けて分析します。
少子高齢化社会・人口減少でITエンジニア人材も減少
日本のITエンジニア人材不足の理由・原因の1つが、少子高齢化による人口減少。2023年度の厚生労働白書によると生産年齢人口割合は2040年には55.0%、2070年には52.1.8%まで減少し、IT・WEB業界以外でも人手不足は深刻化しています。
生産年齢人口割合が減少から人材不足が起き、過去と比較して全体の転職求人倍率が高く、業種・職種別でみても一部を除き多くの分野で転職求人倍率は高く推移。特に若年労働者は業界間で採用競争となり、生産年齢人口割合が変わらなければ深刻な人手不足は続き、今後もITエンジニア人材の不足・減少が予測されます。
企業のビジネスやサービスのDX化でITエンジニア需要が拡大
ITエンジニア人材はIT・WEB業界の企業で働くエンジニアやAI・ビッグデータの活用などの分野だけでなく、一般企業におけるサービスのDX化にも不可欠。またITエンジニア人材は既存のITビジネスだけでなく、社会全体の生産性向上や新規ビジネスの創出などDX対応にも必要です。
第四次産業革命に対応するための先端IT分野のエンジニア需要の拡大、また社会全体のITエンジニア需要の増加も、IT人材不足の理由とも言えます。
ITエンジニア人材が求められる「第四次産業革命」とは?
18世紀の技術革新による産業革命に続き、AI、IoT、ビッグデータやロボットの技術革新によりもたらされるのが第四次産業革命。技術だけでなく「モノ・カネ」から「ヒト・データ」へのシフトも予測され、今後の企業は情報やデータを積極的に活用、サービスやビジネスへの拡大が重要で、ITエンジニアの人材需要がますます高まると予想されます。
市場の需要変化が早く、システム開発業務に必要な知識やスキル・能力も変化
市場の需要変化の早さもITエンジニア人材の人手不足の一因です。
従来は一部のサービスのみに求められたシステム開発業務も、DX(デジタルトランスフォーメーション)対応で需要が拡大。2019年の調査では需要を満たすと考えられた従来型IT人材の分野でも人手不足は起きています。
また、今後の市場の需要変化の予測ではAI・IoT・ビッグデータ関連の先端IT人材を必要とされますが、市場の需要変化に従来型IT人材からの転換が遅れ、先端IT人材の供給が追いついていません。AI・ビッグデータなど先端IT分野は技術の変化や、システム開発業務に必要な知識やスキル・能力の変化も早く、エンジニア人材の育成や教育・研修制度の重要性が増すと考えられます。
人材育成や教育環境、学校教育ではICT機器の利用割合など問題が多い
人手不足の解消につながる人材育成・教育の分野でも問題は多くあります。
過去の「OECD生徒の学習到達度調査」(文部科学省発表)で、日本は数学的・科学的リテラシー、読解力はトップレベルの一方、学校教育でのデジタル機器の利用時間がOECD加盟国の中で最下位という問題は、2022年度の調査では「学校でのICTリソースの利用しやすさ」が第5位と改善。日本は地域による教育環境の格差が少なく、低得点層の割合が低い特徴も強みです。
日本の学生はWEBサイトをゲームやチャット、ニュース閲覧など個人での利用割合が高い半面、教育分野ではツールとしての利用が少ない問題がありましたが、現在は活用も活発化。一方、各教科での利用頻度割合や、ICT機器に関連するスキル・知識への自己効力感はOECD諸国と比較して低いなど、学校教育を通してのIT人材の育成、教育環境の整備は今後も大きな課題です。
IT関連産業の年収水準が海外のエンジニアと比較して低い
以前より、日本のIT関連産業は海外と比較して平均年収や待遇が悪いとの指摘もあり、ITエンジニア希望者が少ない点もIT人材不足の理由の1つです。
総合人材サービス・ヒューマンリソシア株式会社の調査では、日本のITエンジニアの平均年収は26位。上位国と比較し4割に満たない低い水準に加え、給与増加率では69ヶ国中58位の上、ドルベースでみれば減少しています(2024年1月公表の「データで見る世界のITエンジニアレポート」より)。
やや古いデータですが、回答者の年収を諸外国と比較した「IT人材に関する各国比較調査」(2016年・経済産業省)では、エンジニアの年収が国内の他産業の平均年収の10倍近いインドネシア・インドと比較し、日本は2倍以下。給与・報酬へのエンジニアの満足度も調査8ヶ国の中で最下位でした。
またベトナムやインドのITエンジニアは20代中心と比較し、日本では40代、30代が多く、年齢や業務経験を考慮すれば実態はさらに低い可能性も。「IT人材需給に関する調査」でも給与や労働環境を理由としてのIT人材の離職が問題視され、離職による非IT職種への転向もITエンジニア人材不足の原因です。
2015年以降はIT需要の増加に伴い離職率は低下傾向ですが、ITエンジニア人材の不足を回避する方法として雇用条件、労働環境の改善も必要。ITエンジニア人材を獲得したい企業にとって、待遇面でも魅力的な仕事にすることも求められています。
IT技術者の人手不足の解決方法~今後の対策としてできることは?
以上、日本におけるIT人材不足の現状やITエンジニア不足の原因を紹介しました。次に、IT技術者の人手不足の解決方法や今後の対策について、「IT人材需給に関する調査」の内容を抜粋、以下で紹介します。
プログラミング教育の必修化や大学での先端技術教育の強化
学校教育ICT化の遅れによる人材育成の課題への対策の1つが、小学校からのプログラミング教育の必修化。プログラミング的思考の育成が目的の初等・中等教育でのプログラミング教育で、IT関連の知識やスキル・能力に関連する教育機会の増加を目的に2020年に必修化されました。
小学校低学年からプログラミング的思考に触れ、IT技術者・エンジニア人材としてだけでなく、IT・WEB業界以外や非IT職種も含む社会全体の生産性向上やDX化への対応が期待されます。
また現在増加傾向にある新卒のITエンジニア人材数の維持・上昇も重要。高度専門教育を行う大学・大学院の定員増加や、AI、IoT、ビッグデータ解析など需要のあるスキルや先端技術・能力についての教育強化も必要なIT人材不足対策の1つです。
政府による専門知識・スキル習得支援制度の活用、利用促進も重要
学生向けの教育分野での対策と同時に、ITエンジニア人材不足の解決方法として、従来型ITエンジニア人材の先端IT人材化や、IT・WEB業界以外で働く人のITエンジニア人材への転換も必要です。
「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」は、IT・WEB業界やIT利活用分野での専門知識や実践的なスキルを学べる教育訓練講座を経済産業大臣が認定する制度。厚生労働省の教育訓練給付金制度と組み合わせ、受講費用の50~70%を支給し、高度なIT技術の習得を支援し、ITエンジニア人材不足の解消をサポートしています(利用要件を満たす必要あり)。
厚生労働省の教育訓練給付金制度のうち、先端IT技術取得訓練が対象の「専門実践的教育訓練」は、給付率が一般教育訓練給付金よりも高く、終了から1年以内に就職できた場合は追加の給付金支給も。訓練終了後、ITエンジニア人材として採用されれば最大で教育訓練経費の70%(年間上限56万円)が支給されます。
既存ITエンジニアの先端IT人材への転換や、業界未経験者のITスキル習得を金銭面で支援し、ITエンジニア人材の総数を増加して先端IT人材不足の解消が狙いです。
企業社内でのIT技術者育成は人材開発支援助成金でサポート
ITエンジニアの人材不足問題の解決の方法としては、企業社内でのIT技術者の育成も重要。例えば先端IT人材のうち、AIのソフトウェア開発や実装を担うAIエンジニアは企業内での育成も可能で、対応する会社が増えれば人材不足解消に繋がります。厚生労働省は「人材開発支援助成金」などで企業社内でのIT技術者育成をサポート、社内でプログラミング研修を導入する企業も増えています。
また法人向けにプログラミング研修を提供するプログラミングスクールの増加もIT人材不足解消を支援。オンラインのマンツーマンレッスンでプログラミングを学べるCodeCamp、短期集中でプログラミングを学べるTechAcademyなど、当サイトで人気のプログラミングスクールも企業向けのプログラミング研修を行っています。
ITエンジニアの年収・雇用条件や働き方、待遇改善も今後の課題
IT人材を増やす方法として、ITエンジニアの年収などの雇用条件や待遇改善も重要。週2日程度の出社を理想とするエンジニアが一番多いという調査結果(*1)や完全出社なら離職を検討するという調査(*2)もあり、他の業界・業種や職種と比較して、IT・WEB業界のエンジニアはリモートワーク希望が多く、年収アップと同時に働き方の改善は重要な課題です。
*1 転職ドラフト「ITエンジニアの働き方」に関するアンケート調査(2023年発表)
*2 株式会社ロジクールによる2023年9月の調査
また案件確保や福利厚生を支援するフリーランスエージェントを利用し、フリーランスとして待遇改善に取り組むエンジニアも増加。正社員で働くITエンジニアも、会社がリモートや在宅ワークの導入で待遇改善も可能で、企業が希望者向けに在宅勤務を支援することで、離職率の低下やIT人材不足の解消を期待できます。
未経験からのIT・WEB業界やエンジニアへの転職成功事例も増加
少子高齢化、IT関連職の年収問題、需要変化によるIT人材需要の増加など、ITエンジニア人材不足の理由は複数あります。
今後の経済成長に直結する重要な問題でもあるエンジニアの人手不足は、政府は助成金などの形でITエンジニア人材の増加を支援、国を挙げてIT人材の育成を目指しており、未経験者のIT・WEB業界やエンジニアへの転職の成功事例も増加。過去と比較して未経験でもITエンジニア人材のキャリアチェンジをしやすくなり、企業や政府のサイトから情報を収集、活用がおすすめです。
未経験者向けにIT関連職へのキャリアチェンジを支援するプログラミングスクールを活用
IT知識やプログラミングスキルは独学でも学べる一方、未経験からIT人材にキャリアチェンジを目指すならプログラミングスクールの利用がおすすめ。仕事をしながらIT・WEB業界の知識・スキルを学習可能な未経験者向けのサービスも多く、IT・WEB業界未経験からプログラミングスクールを利用し、IT人材への転職成功事例も多く、現在IT技術者として活躍中の方も数多くいます。
専門実践的教育訓練給付金を利用可能なコースを利用すれば金銭負担の少ないプログラミングスクールや、講座終了後、スクールの紹介した会社に転職すれば無料でプログラミングが学べるプログラミングスクールも増加。オンラインのプログラミングスクールも増え、以前よりプログラミング学習が身近になり、未経験者でもIT人材を目指しやすい環境です。
今こそ、自分に合うプログラミングスクール見つけ、未経験からのITエンジニア転職に挑戦する絶好のタイミング。無料セミナーや相談会など、無料体験の機会を提供するスクールも多く、IT人材へキャリアチェンジしたい方はまずは一歩踏み出してはいかがでしょうか?
未経験者歓迎のITエンジニア求人が増え、採用企業も増加
ITエンジニアの人材不足は採用する企業側にも影響し、プログラミングスクール卒業直後で業務経験の無い場合も応募可能な未経験者歓迎のITエンジニア求人も増加。未経験者のITエンジニアとしての採用を前提に社内のIT人材教育制度を整える企業も増えています。
未経験者向けのITエンジニア求人は待遇面では期待できないものの、IT関連職種は経験を積めば好条件で転職、キャリアアップしやすく、まずは未経験者歓迎の会社での採用、IT人材としてのキャリアを始めるのがおすすめです。
未経験者向けにも仕事を紹介可能な転職エージェントで情報収集もおすすめ
ITエンジニアの人材不足は人材紹介サービスにも影響を与え、割合は少ないものの転職エージェントにも未経験者向けに紹介可能な仕事も増加。経験者が待遇改善やキャリアップのできる転職に利用するだけでなく、未経験者こそ情報収集や転職活動に活用がおすすめです。
転職エージェントは人材紹介だけでなく、キャリア相談や面接対応、企業との交渉など幅広いサービスを利用可能。IT関連業種に限らず人材不足で利用する会社も増え、未経験者こそIT人材へのキャリアチェンジに利用がおすすめです。
\未経験からITエンジニア転職のチャンス/ |
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※本ページの内容は2019年に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」の報告資料をもとに作成しています。